純国産宝絹

シルクな人々

伝統的な技法で絹製品をつくる職人や蚕糸絹業の研究者など、純国産絹にまつわる人々を訪ね、シルクとともにあったこれまでの人生についてお聞きします。

2016.06.15 UPDATE


第1回岡谷蚕糸博物館館長高林千幸

製糸のまち・岡谷の養蚕復興を担う人

かつて日本一の製糸業地として発展し、「糸都」として名を馳せたまち、岡谷。この地の歴史を伝える岡谷蚕糸博物館が、2014年、(独)農業生物資源研究所(旧岡谷製糸試験所)跡地に移転オープン。実際に稼働している製糸所を館内に併設するなど、その画期的な展示形態が話題を呼んでいます。現在、同博物館で館長を務める、髙林千幸さんを訪ねました。

   

Profile

1973年、東京農工大学工学部製糸学科を卒業。同年、農林省蚕糸試験場製糸部の研究員となる。1974年、蚕糸試験場岡谷製糸試験所入所。2006年、(独)農業生物資源研究所生活資材開発ユニット(岡谷)のユニット長となる。シルク研究一筋で、2011年定年退職。同年、岡谷蚕糸博物館の館長に就任。農学博士(東京大学)。日本シルク学会会長。

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40年間の研究者人生を経て、館長に就任

私の親の実家は養蚕農家で、幼少の頃はよく親の手伝いをしていました。そうした環境で繊維というものに自然と興味を抱くようになり、中でも製糸や繊維について専門的に勉強できる大学に進学しました。それから約40年間は研究活動に勤しみ、ハイブリッドシルクなどのシルク新素材の開発や、繭糸の性質を利用した人工血管の開発などを行いました。2011年、退職の年に岡谷市からの依頼を受け、岡谷蚕糸博物館の館長に就任しました。同時期にそれまで勤めていた研究所がつくばへ移転し、その空いた場所へ博物館を移設することになり、その準備に取りかかりました。そして、2014年8月1日に岡谷蚕糸博物館(シルクファクトおかや)としてリニューアルオープンしたのです。

「静」と「動」を見学できる博物館

移転前の岡谷蚕糸博物館では、昔の道具や機械の変遷など、静態的な展示のみを行っていたのですが、見学される方にはそれらの機械がどのように使われるのかがわかりませんでした。そこで、繭からどういった機械を使って生糸とし、どのような製品になるのかということをご自分の目で見ていただける博物館にするため、宮坂製糸所に入っていただきました。博物館と製糸所の両方が良い方向に進んでいけるよう、現在は二人三脚で頑張っています。

フランス式繰糸機など、貴重な製糸機械類を多く展示

フランス式繰糸機など、貴重な製糸機械類を多く展示

宮坂製糸所の稼働風景

宮坂製糸所の稼働風景

岡谷蚕糸博物館発、岡谷産シルクの実現を目指して

純国産絹の維持と普及のためには、繭の生産量を増やすことが最大の課題です。例えば、宮坂製糸所を1年間稼働させるためには、約5トンの生繭が必要になります。そこで、岡谷市内で養蚕農家やその仲間を増やすとともに、いろいろな施設、学校、家庭で養蚕を少しでもやってもらえないだろうかと思い、「一家に一本桑の木運動」を始めました。市民や来館者に桑の木の苗を配り、桑の木と蚕を育てていただくのです。岡谷市内で育てた蚕の繭から宮坂製糸所の繰糸機を使って糸をとり、絹製品にして岡谷絹工房などで販売し、養蚕から販売まで「メイド・イン・岡谷」のシルクができればと考えています。

物館の庭に植えられた桑の木

博物館の庭に植えられた桑の木

純国産絹は「日本人の心」

生糸の生産量を見ると、今は中国が世界で一番です。次いでインド、ウズベキスタン、タイ、ブラジルの順になっています。しかし、こういう時代にあっても、海外から繭を買い、それで糸や製品をつくり、「これが日本の絹ですよ」と言うわけにはいきません。他の国にはできない、日本のオリジナルの絹製品をつくるシステムが大切です。製品の生産から加工までを誰が行ったのかがわかれば、購入される方は安心できますし、日本のものとして親しみが感じられます。そして何よりも、「美しいものを身につけたい」という日本人の心を満足させるには、純国産絹が必要だと思います。国産絹の消費量がたとえ1%に満たなくても、日本が今まで培ってきた養蚕と製糸の技術を使い、日本人にしかできない糸づくりを続けていく。そうすることで、日本の文化や日本人の心そのものが守られるのだと思います。

岡谷蚕糸博物館(シルクファクトおかや)

〒394-0021 長野県岡谷市郷田1-4-8
Tel. 0266-23-3489 Fax. 0266-22-3675
■開館時間 午前9:00〜午後5:00
※宮坂製糸所、まゆちゃん工房は9:00〜12:00、13:00〜16:00
■休館日 毎週水曜日(その日が祝日の場合は開館)祝日の翌日、12/29〜1/3、その他臨時休館日あり
■ホームページ http://silkfact.jp

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