絹の備忘録

『絹の備忘録』では純国産絹にまつわるトピックを書き留めたコラムを更新していきます。

2016.12.27 UPDATE


「天然素材と手しごとが生む色の妙 冬の紅花染め」

草木染めの中でもひときわ鮮やかな紅花染めは、冬に染めるのが最も良いとされます。花摘みから染めまで、天然の素材を用い手作業で完成する 紅花染めはどのように生まれるのでしょう。

寒い季節こそ美しく染まる紅花染め

俳句の季語に寒紅(かんべに)という言葉があります。古来、日本では女性がつける口紅は紅花から作られていました。紅花から取れる紅は寒い冬に作られるものが色が良く美しいとされ珍重されたことから、この寒紅が冬の季語のひとつになったのです。また、同じ紅を使い絹を染める紅花染めも、やはり寒さ厳しい冬に作られたものが最上 とされてきました。
草木染めは日本の着物文化が誇る伝統的な技術です。その多くは、樹木の葉や木、皮を使用しますが、紅花染めは花を使う希少なものです。 紅花の収穫の季節は夏。紅花には棘があるので、早朝、朝露でまだ棘の柔らかいうちに一つひとつ手作業で摘まれます。紅花には黄と紅の色素が含まれます。そこで、集めた紅花に水を加えて黄の色素成分を流し出し、さらに足で踏んで発酵させます。これを乾燥させ、煎餅状に加工したものが紅餅です。

明治時代の養蚕農家にあったとされる蚕棚

紅餅

布を紅に染めるには、紅色がアルカリ性の溶液に溶け出す特性を利用し、紅餅に灰汁などを加えた水に浸し、紅色を抽出します。さらにそれを酸性の液で中和・発色させます。この工程には、烏梅(うばい)と呼ばれる、完熟した梅の実を燻蒸したものや米酢が用いられます。 鍋で煮出すことが多い草木染めと違い、紅花染めでは熱を加えないため腐敗が早く、染めの過程にはより冷たい水が好んで用いられます。紅花の産地のひとつ山形・米沢では、寒さ厳しい北国の冬に職人たちが冷たい水桶に手を浸しながら、美しい紅の色を染め出してきたのです。熟練した職人は、この染めの工程 を繰り返すことで、 表情の異なる紅のいろを自在に生みだします 。現代のように 街並みに色の溢れることのなかった頃、雪の散らつく冬の日など、美しい紅の着物や帯はことさら人目をひいたことでしょう。

染の様子

●写真協力●

株式会社 新田

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